2024.10.11

総則6項を巡る事件で国の控訴を棄却

東京高裁は8月28日、非上場株式の相続税評価額を巡る事件で、一審に続き総則6項の適用を認めず、国の控訴を棄却しました。税務訴訟で総則6項の適用が認められなった事件は初めてとみられ、国の動向が注目されていたが、最高裁への上告を行わなかったことににより、この高裁での判決が確定しました。

総則6項とは・・・財産評価基本通達6項 
「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」

事件の概要(時系列順)
・X社株式をY社に譲渡する基本合意が締結(譲渡予定価格:1株約10万5千円)
・被相続人(X社代表者)の相続が発生し相続人がX社株式を相続
  ・相続人は約定通りの金額でX社株式を売却
・相続税は財産評価基本通達通りに評価し1株約8千円で申告

国側の対応
評価通達の定めにより評価することが著しく不適当として、国税庁長官の指示により評価する総則6項に基づき、類似業種批准価額とは異なる株式価値の算定金額に基づき1株当たり約8万円(本件算定報告額)と評価した上で、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。

争点
本件相続株式を総則6項により評価することの適否
⇒評価通達の定める方法により画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情(特段の事情)が存在していたか否か?

高裁の判断
国の控訴を棄却
①令和4年最高裁判決(※)に基づき本件通達評価額(約8千円)と本件算定報告額(8万円)の間に大きな乖離がある事のみをもって直ちに、評価通達の定めによる画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があるとは言えない。
②取引相場のない株式の交換価値は本来、専門的な評価を経ない限り判明しえない。とりわけM&Aが行われる場合では、高度な経営判断や双方の交渉の結果等により株式の売買代金が決定されるもので、売買代金が交換価値を反映しているとは限らない。
③譲渡予定価格が評価通達による評価金額を大きく上回るものであったことは、相続税の負担を増大させる可能性を有するものであり、相続税の負担を減じ、又は免れさせるという効果は存しない。
④よって評価通達の定める方法により画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情(特段の事情)は存在していない。

(※)令和4年最高裁判決
 総則6項巡るはじめての最高裁判決。
 相続人が近い将来発生が予想される相続に対して、金融機関から多額の借入を行い不動産を購入(共に14億円)。その後発生した相続の相続税に申告では評価通達通りの評価方法により約3億3370万円で評価、債務控除等の適用もあり相続税の申告額は0円で申告。国は「評価通達の定めによって評価することが著しく不適当」とし鑑定額約12億7,300万円で更正処分を行った。裁判は国側の勝訴。

ポイント
①令和4年の最高裁判決では、総則6項の適用については
・通達評価額と鑑定評価額の価格の大きな乖離だけをもって総則6項を適用する「特段の事情」があるとは言えない。
・被相続人等の節税意図や節税のための行為が必要としている。
・「特段の事情」について具体的な基準等は明示していない。
②今回の高裁判決では
・「特段の事情」についての具体的な基準等は明示されなかった。
・租税回避行為があることが総則6項の適用要件であるとは言っていない旨を示した。

令和4年最高裁判決でも、今回の高裁判決でも「特段の事情」にあたるか否かの明確な基準等は示されませんでした。適正な申告・納税を行うためにもある程度の基準は示して欲しかったというのが個人的な感想です。しかし、節税以外に理由が説明できないような過度な節税対策等は、やはり否認されるリスクが高いため注意をする必要がありそうです。