予測可能性
すこし前になりますが2022年4月19日にいわゆる「タワマン節税」に関する注目の判決が出ました。
「タワマン節税」とは相続税を計算する際に、実際のタワーマンションの購入額と相続税申告時の評価額と差を利用して、節税をはかろうというものです。
個人が所有していた財産については、原則として「財産評価基本通達」というものに則って財産の評価額を算出します。不動産については、土地は路線価地域に所在していれば路線価を基に、建物は固定資産税評価額を基に計算されます。このときタワーマンションの土地については、土地全体の評価額を算出した後、持ち分に応じて按分されます。建物についても平成29年3月以前に建築されたものについては建物全体の評価額を算出した後、持ち分に応じて按分されていました。(平成29年4月以降建築分については、実際の取引価格の傾向に応じて、所有者ごとに補正が行われています。)
つまり、タワーマンションの1階の部屋でも30階の部屋でも評価額は変わりませんでした。しかし、実際の購入価格は高層階になるほど高くなるため、評価額との乖離が発生し相続財産を圧縮する効果がありました。
今回の判決では裁判所は「財産評価通達6項」というものを採用しました。
この6項とは「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」という内容です。
この裁判の事案では、路線価等を用いた評価額は「著しく不適当」であるとし、不動産鑑定評価額を採用するという納税者敗訴の判決になりました。
しかし「著しく不適当」というのが、売買金額と評価額の間にいくら以上差額がある・何%以上乖離している等の具体的な基準は示されませんでした。
こちらも少し前になりますが、お笑い芸人のじゃいさんが競馬の払戻金について、はずれ馬券の購入費用が必要経費と認められず、多額の追徴課税をうけた、という話が話題になりました。
平成29年12月15日の最高裁判例では「偶然性の影響を減殺するために長期間にわたって多数の馬券を頻繁に購入することにより、年間を通じての収支で利益が得られるように継続的に馬券を購入」している場合には雑所得に該当しハズレ馬券の購入費用も必要経費と認められるという判決が出ています。
ただし、こちらも具体的に年間どの程度の購入であれば雑所得該当するかは明示されていません。
税というものは「予測可能性」が確保されていることが重要だと思います。納税者にとっては「どの程度の納税が発生するか」ということは実際に取引を行うか否かの判断要素の一つになります。適正な納税を行うためにも、もう少し具体的な基準を示してほしいものです。